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熱エネルギーで穏やかな地球を取り戻す。東京工業大学 松下祥子研究室

お問い合わせは
matsushita.s.ab あっとまーくm.titech.ac.jp

〒226-8501 神奈川県横浜市緑区
長津田町4259 Mail Box. J2-48,
J2棟1410号室

研究内容Research contents

室長ごあいさつ

当研究室サイトへのご訪問ありがとうございます。
我々は、屋根の下・壁の中などでも発電でき、石油価格に影響を与えうるとして欧米中露アジア中東アフリカにて報道された熱エネルギー変換技術、 「半導体増感型熱利用発電(Semiconductor-Sensitized Thermal Cell, 通称STC」を提案し、エネルギー問題の解決と雇用の創出を目指して日々研究を行っています。

STC概要については共同研究先による下記動画を、学術についてはその下の解説をお読みください。


半導体増感型熱利用発電の学術

資源に乏しい日本。しかもせっかく輸入してきた1次エネルギーの3分の2が排熱として捨てられているのをご存知でしょうか。我々は、この排熱から電力を生み出す学術に、本気で取り組んでいます。そのコア技術が半導体増感型熱利用発電、STCです。
詳細は共同研究企業である株式会社elleThermoの説明動画をご参照ください。
https://www.youtube.com/@elleThermo/videos

目次

1.光励起?熱励起?
2.熱励起電荷による酸化還元
3.放電能力の回復 ”熱充電”
4.フェルミ準位?擬フェルミ準位?
5.デバイス作動の確認
6.実験を行う上での注意点
7.おススメの勉強法
8.STC貸し出し

光励起?熱励起?

当研究室発の技術半導体増感型熱利用発電(STC)は、化学系太陽電池と呼ばれ多くの研究がなされてきた色素増感型太陽電池(DSSC)の光励起を熱励起に変えたものです(特許第680376号)。色素増感型太陽電池では、色素の光励起電荷により、イオンが酸化還元反応を起こし、光で発電します。この光励起電荷を、半導体の熱励起電荷に変えた時に発電するのか・・・それがこの研究の始まりでした。 もし発電するのであれば、それは熱エネルギーを直接電気に変える電池になります。電池を地中に埋めれば地熱で発電できるようになり、国土が狭く、石油資源に乏しい、我が国にふさわしい発電所が構築できます。放射性廃棄物も出ず、天候の変動にも左右されません。


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熱励起電荷による酸化還元

まず行ったのは、この熱励起電荷により、イオンの酸化還元反応が起こせるかどうかの確認でした(Mater. Horiz., 2017, 4, 649–656)。その結果、β-FeSi2と銅イオン伝導体を用いて、600℃での長期発電を確認できました。ただし、この時はイオンの酸化還元反応を確認するべく、電解液の中でのイオン移動度は非常に低いものを使用しました。
 そこで原理を確認するために、有機ペロブスカイト増感型太陽電池に着目しました。有機ペロブスカイトは太陽電池材料としても有名ですが、熱で電子を生み出せる可能性があることが、 計算により示されていたからです。この有機ペロブスカイト増感型電池を作製し、光でも熱でも発電することができるのであれば、それはSTCの原理の明確な証明になります。 実験は有機ペロブスカイトの脆弱性のため困難を極めましたが、最終的に、光でも熱でも発電を確認することができたのです(ACS Appl. Energy Mater., 2019, 2, 13–18)。さらに、硫化銀半導体を用いても、光でも熱でも発電を確認することができました(J. Phys. Chem. C, 123, 12135-12141 (2019).)


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放電能力の回復 ”熱充電”

次の問題は、「この電池は発電が終了するのか?」でした。我々は、本電池は熱流によって作動するため永久機関ではないことに確信を持っていました。一方、化学平衡による発電終了は起きうると考えていました。そこで電解質イオン量を調整でき、耐久性が比較的高い高分子電解質を使い、初めて発電の終了を確確認しました。さらに驚くべきことに、熱エネルギーにより電解質内でイオンが拡散することを利用すると、発電能力が復活することも確認できました。すなわち、熱源に埋めてスイッチをオンすれば発電し、オフすれば発電能力復活する、画期的な電池だったのです (J. Mater. Chem. A, 2019, 7, 18249.)。
  イオン拡散が重要であることに気づいた我々は作用極・対極間の距離に着目して研究を行い、電極間距離が大きすぎても小さすぎても熱充電は起きないことを確認すると共に、一次電池やリチウムイオン電池など電解質量で放電時間が決まる他電池との決定的な違いを確認したのでした(Energy Fuels 2022, 36, 19, 11619.)。


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フェルミ準位?擬フェルミ準位?

更に我々は、電子輸送層であるn-Siのドープ濃度を変化させることで、作用極のフェルミ準位がSTCの開放電圧に依存することを示しました(Chem. Lett. 2020, 49, 1013.)。この点が、光励起により平衡状態からずれるほどの電子が全体の一部に生成し、擬フェルミ準位が形成する光励起とは異なります。つまり原理的に、開放電圧は、熱励起の方が光励起より小さくなります。これらのことから、我々は、励起「源」で捉えられがちなエネルギー変換に対し、励起電荷「数」で捉えることが重要ではないかと言う考えに至りました。


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デバイス作動の確認

原理確認されたSTCは、単セルあたり約0.3Vの開放電圧を示しました。実際にデバイス駆動に使えるのかの確認を行いました。

 まずは2019年。およそ80℃くらいのホットプレート上のSTCにより、液晶ディスプレイの液晶が反応する様子です。開放電圧さえあれば作動するのでそんなに凄いものではありません。使ったのはシート型STCの大型版です。



次に行ったのがLEDの点灯です。およそ70℃くらいのホットプレート上です。放射温度計のレーザーの方が明るく目を引きますが、そのあとに淡く光るLEDには「本当に熱で発電したんだ。。。この明かりが、世界で初めて、STCで発電した明かりなんだ」という感動がじわじわと波のように襲ってきました。LEDは、ある程度の電圧と放電電流がないと光らないので。使ったのは三櫻工業様のコイン型STCです。


そしてこちらが、学術論文で報告した、アスファルトの熱でのbluetooth通信デバイスの稼働です。この時は昇圧デバイスと組み合わせています。 使ったのは三櫻工業様のコイン型STCです。画像をクリックすると動画へ飛びます。


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実験を行う上での注意点

本電池に興味を持っていただき実験を行っていただく方は、以下の2点に気を付けて下さい:
1)I-Vで発電が確認できても、材料が溶けていないことを必ず確認してください
2)クロノポテンショメトリーを取ってください。キャパシタでもI-Vで開放電圧が確認できることがありますから、放電時の電圧の時間依存を取り、プラトー領域が出ることを、初回放電・2回目以降放電で確認してください。この時、放電電流値は小さめにしてください。電流値が大きいと発電していても測定に引っかからない可能性があります。

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おススメの勉強法

1.まず公開総説を読み、分からない単語にマークを付ける。
2.分からない単語が属する学術分野順に、下記の教科書を勉強する。。
a.電気化学(酸化還元準位、電気2重層など) 「電気化学測定マニュアル 基礎編」>など
b.半導体工学(励起電荷、フェルミ準位など)「太陽電池の物理」など
c.非平衡物理(開放系・閉鎖系、熱力学の第2法則など)「現代熱力学」など

この3冊をマスターしたら、もはやあなたはSTCの博士なみです!

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STC貸し出し

新しい技術であるSTCの発電原理を信じていただくために、実験室で作ったSTCの貸し出しを行っていました(2022年12月現在は貸し出しは行っていません)。
その際の、芝浦工大 真鍋先生のご測定結果を参考に掲載します。
(2021.5.10.作製~2021.5.21.測定)測定後ご感想「挙動としては,キャパシタ付きの発電素子みたいなイメージでしょうか.」